サピックス4年生後半戦〜高学年でも通用する学習の型とマインドを身につける〜

今回の記事ではサピックスのカリキュラムを紐解きながら、4年生後半戦の特徴と、5年生に進級した時に困らないよう、今から気を付けておくべき事についてお話致します。

1: 4年生の学習と5年生からの学習

まずは4年生の学習と5年生の学習を使って比較していきましょう。

「今から5年生の話?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実を申しますと4年生の後半戦はそれ自体が量・質ともに非常にハード、という訳ではありません。

だからこそ、5年生からの学習を見据えた上で4年生の後半戦を過ごすことで、5年生から急傾斜になる「技術を手に入れる坂道」をしっかりと登りきれる素地を作って欲しいと思います。

1-1: 量の違い

まずは、テキスト(デイリーサピックス全ページと5年生から登場するデイリーサポート全ページ)の問題数を比較してみましょう。毎回数問の違いはありますが概ね数は同じです。ただしA授業で出てくる、完全にB授業の数値替えの問題を省くこととします。

4年生 5年生
基本技術 18 63
応用技術 2 6
思考力系 3 8

改めて見ると約3倍となり、確かに恐ろしい程の違いとなります。

もちろん、全て取り組むことができていないとしても、標準の63問中45問は取り組んでいることが多く、それでも2.5倍です。

まずは問題量の時点でこの違いがあるということを押さえておきましょう。

1-2: 難易度の違い

次に難易度の違いで見てみましょう。

一旦ここでは評価を単純にするため「難関校・最難関校で過去10年の入試に出たことがあるポイント = 入試通用レベル」として評価し、6年生前半までその「入試通用レベル」をどのように知識を習っていくかを表現しました。

図1

これを見ると、4年生〜5年生前半までは「入試通用レベル」は一定量ずつ習い続け、5年生後半〜6年生前半に加速して習得していくことがわかります。ただしこれは「テキストで1回でも出題されたものを習ったとカウントするのであれば」ということです。

次に「応用問題に挑戦・入試問題に挑戦・頭脳トレーニング」のような「応用問題・思考力問題」に取り組んだ場合とそうでない場合の技術習得の違いについて比べてみましょう。

図2

(※ここでは定量化して測ることができる「習得した技術の数」に注目するため、定量化が難しい思考力問題で鍛えられる思考力については言及しないこととします。)

「応用・発展問題」に取り組まなかった分の「一度でも触れたことがある技術の量の差」が赤色と青色の差になります。こうすると4年終了時点でついていた差は5年生の前半に随分縮まり、次に5年生後半からまた差が開いていくことがわかります。

「4年生の時に取り組まなかった問題でもまた5年生前半で習うんだ」と捉えることもできるものの、逆を言うと「5年生から、初めて出会う難易度の高いものが一気に増える」ということでもあります。

1-3: 多く上がるお声

例年、5年生の初めにはこういったご相談を多くいただきます。

「ボリュームが多く、うまくこなせません。◯◯はやらなくても大丈夫でしょうか?◯◯の回数を減らしてもいいでしょうか?」
「マンスリー前に復習してみたら、ポロポロと知識の抜け漏れがありました。」
「4年生まで得意だと思っていた算数ですが、5年生からは苦手で嫌いな科目になってしまいました。」

ただし、いただくお声は悪いものばかりでもありません。「5年生から成績が下がってしまった」という相談と同じぐらい「5年生から徐々に伸びました」というお声もいただきます。

それは4年生までのテストが

1: 技術の難易度がそこまで高くはない問題群

2: 前半は、習っている技術の種類は決して多くない中でのミス勝負

3: 最後の問題は、全くの未習得技術や難易度の高い思考力問題も出題される

であるのに対し、5年生からは

1: しっかりと練習しておかないとテストで再現できないような一定の難易度の問題群

2: 習った技術が習得できているかいないかが問われる

テストに移行します。

つまり「技術を1週間の中でもれなく吸収・活用できるお子様」であれば得点できる内容がほとんどなのです。

ここまでのお話を踏まえた上で、では5年生を乗り切るために、4年生後半戦はどのように過ごせば良いのでしょうか?

2: 5年生に備えて4年生の間に取り組んで欲しいこと

大きく3つ

1: 技術習得の効率化

2: 応用問題・思考力問題への挑戦

3: 使い慣れた技術から「新しいもの・より良いもの」を真似してアップデートする経験

です。

2-1: 技術習得の効率化

先ほども申し上げましたように、5年生からの学習は単純に問題量も3倍(全てに取り組まないとしても2.5倍)、難易度も上がり、特に算数が得意ではないお子様にとっては、1問1問にかかる時間も長くなります。

単純に計算すると、4年生の頃のどれだけ少なくとも2.5倍〜多い場合は5倍程度の時間はかかるということになりますので、4年生の頃に「時間をかけ過ぎずに1つの技術を身につける」訓練を積んでいることがとても重要です。

指針としては

・デイリーチェックで9割以上を得点すること

・家庭学習でテキストを2周回し、合計の学習時間は3〜4時間以内で

を両立すること、になります。

まず、一つ目。
「デイリーチェックで9割以上を得点すること」何よりも重要です。

習った直後の、テキストの標準問題の数値替え問題であるデイリーチェックで9割以上得点できていなければ、「身についた」とは言えません。

まずここに達していないお子様は、何よりも、デイリーチェックを9割以上得点できるよう目標を決めて頑張りましょう。そのために何時間でも、何回でもテキストを学習して欲しいと思います。まずは「ここまでやれば満点が取れる」「ここまで徹底して学習するんだ」という基準を体感で覚えることが重要です。サピックス4年生の学びのハードルは決して高すぎることはありませんので、もしそこまで得点できていないのだとしたら、「学習の方法」に課題があるということです。

1週間の具体的な取り組みについては、デイリーチェックの学習・管理方法詳細をご参照ください。また実際4年生のデイリーチェックの得点が奮わなかったお子様のケースとしてVoice3 : デイチェが半分も取れなかった算数が苦手だった男の子が偏差値60弱まで届くようになりましたも合わせてご覧ください。

次に、二つ目。
「1週間の中で、家庭学習でテキストを2周回し、合計の学習時間は3〜4時間以内で」

これは1つ目の「技術の習得」が一定達成されているお子様が目指して欲しいものとなります。

Bテキスト(今週新しく習う単元)について1週間のサイクルの中で

1周目はテキストの問題(復習しよう + ステップABC 又は StandBy類題)
2周目は1周目で間違えた・不安が残る問題

に取り組むことです。
(1週間の具体的な取り組みについては、デイリーチェックの学習・管理方法詳細をご参照ください)

時間はどれだけ丁寧に取り組んだとしても合計3〜4時間は超えないようにしましょう。

※もちろん問題の処理が早いお子様は1〜2時間で終えられてしまうこともあると思いますし、デイリー9割以上・マンスリー7割以上が概ね得点できているのでしたら、それはそれで構いません。(そのようなお子様は、次の「思考力・応用問題への挑戦」に重点をおきましょう)

「何度も同じ問題を繰り返すことで、高得点を維持している」

「のんびり勉強に取り組んでいて1問1問にかなりの時間がかかる」

それぞれ決してそれ自体が悪いことではありませんが、先を見通すとここで「学習の型」と「かかる時間」を高学年でも通じるものにしておくに越したことはありません。

2-2: 応用問題・思考力問題への挑戦

クラス帯によって指示される宿題の内容は変わるとはいえ、目安として算数の偏差値が45を超えるお子様であれば、できる限り「応用問題に挑戦」「頭脳トレーニング」に、(偏差値55を超えるお子様は「入試問題に挑戦」にも)取り組んでほしいと思います。

「難易度の高い技術の習得」と「思考力の養成」という2つの側面からお話しします。

難易度の高い技術の習得

『応用問題に挑戦』や『入試問題に挑戦』がこれに当たります。

これらは、4年生の時点では「難易度の高い」という紹介がされているものの、5年生に上がってからは標準レベルとして出題されるものになります。そして、もちろん5年生のその同じナンバーには別の新しい技術も含まれているわけなのです。

冒頭にてグラフを用いて説明いたしましたように、5年生に上がった時に「一度知っているもの」として学習するのか「全部全く知らない新しいもの」として学習するのか。。。もし「一度でも習ったことがあるもの」として出会うことができれば、やはり習得にかかる時間は短く済み、でただでさえ、大量の問題をこなす必要のある5年生のハードさが幾分軽減されることは言うまでもありません。

また、余談ですが5年・6年のマンスリーや組分けと違い4年生のマンスリーや組分けではこれらの応用問題で出題された技術や、まだ習っていない技術が毎回出題されています。それは結局、それらの技術を入れなければあまり差がつかないからでしょう。(そういう意味では先取り学習は効果的なのですが、本筋と外れますのでこちらについてはまた後日記載していきたいと思います。)

思考力の養成

「頭脳トレーニング」(と一部の「入試問題に挑戦」)がそれに当たります。

サピックスのカリキュラムの中では特に4年生・5年生の思考力系の問題は良問が多く、ここにサピックスの強みがあると言っても良いでしょう。

賢いお子様のためではなく、「算数的な思考を鍛える」ことによって「そもそも5年生からの学びで難易度の高いものを吸収していく素地が鍛えられる」ものとなりますので、学習に非常に余裕のあるお子様だけでなく、できる限り多くの、そして算数が得意ではないお子様にも取り組んでほしい問題です。

2-3: 使い慣れた技術から「新しいもの・より良いもの」へとアップデートする経験

中学受験算数では、4年生・5年生・6年生と学年が進むごとに同じ問題でも新しい解き方を習得していく(アップデートしていく)ことになります。

どういうことか、図と実例を使って説明していきます。

図3

左側の図が今の4年生〜5年生の状況です。

決して山は高くはないものの、だからこそ、「黄色の行き方」「青色の行き方」「赤色の行き方」と様々な技術を身につけていきます。

一方、右の図は5年生後半〜6年生の状況です。

山は高く複雑です。習った3つの行き方のうち、1つでしか正解にたどり着けません。山の特徴・形に合わせて、方法を選べるかどうか、まで問われる問題です。

多くの場合、後から習う方法の方が、早く・色々なバリエーションの問題を解決できることが多いです。まさに技術のアップデートということです。たとえ、同じぐらい効果的な方法でも、2つのやり方を教えるということは、メリットデメリットがあり、使える場面が微妙に違うということです。

最近習った「和差算・やりとり算」を例にお話します。

左は和差算で利用した「線分図」のイメージ、右は「→で整理する方法」のイメージです。和差算は「線分図」で、やりとり算は「→で整理する方法」で解いていきます。図4

4年生で習うレベルの標準問題は全て「線分図」で、または「→で整理する方法」で解くこともできます。しかし、前回のマンスリーの難題や、5年生以降に習う複雑な問題であれば、「→で整理する方法」でしか解けません。

もちろん5年生で難問で習った時に「→で整理する方法」を新しく身につけるお子様もいらっしゃいますが、ここで昔から馴染んだ「線分図」という方法にこだわって新しい技術を身につけられず、それが成績低下の原因になるお子様が毎年続出しています。

何を言いたいかと言いますと、
「古い技術で解決できる問題でも、新しい技術を一旦我慢して取り入れてみる姿勢」を持っていることは、次々と技術のアップデートが行われる5年生・6年生を乗り切るための重要なマインドとなるのです。

4年生の学びでそのマインドを培うことができるか、すぐに点数には現れない部分かもしれませんが、5年生の学びにうまく乗っていけるかどうかが決まります。

「ちょっと時間がかかっても、正解していたらそれでいいや」

「解説や解説動画が自分の思っていたのと違うやり方なら、無視してしまう」

このような傾向を見逃さず、「新しいやり方も慣れれば簡単だよ」「5年生でも使うらしいよ」「一度やってみよう」という声かけを行って欲しいと思います。 多くは新技術を「よく知らない、難しいそうなもの」と思っていることが原因ですが、4〜5年生の技術であれば多くのお子様にとってそれは先入観にすぎず、慣れてしまえば使いこなせるものが多いのです。

特に5年生後半〜6年生以降の成績優秀者は「新しい技術に貪欲で真似をしたがる」お子様が非常に多いです。持っている頭脳の切れ味の問題ではなく、あくまでも姿勢の部分ですので、是非4年生のうちに、身につけて欲しいと思います。

3: 4年生後半の学習

4年生は、夏期講習後半から、新しい技術を次々と習っていく時期に入っております。

夏期講習は、No13の「水問題(石入れ)」や、No11,14の「場合の数(組み合わせ探し・イチイチ問題)」

9月は、「文章題(和差算・やりとり算・消去算)」とそれぞれ中学受験算数らしい特殊算や通常中学校以降の数学で習うような内容と、いずれもしっかりしたやり方・技術を新しく身につけなければ解けない問題が並びました。

10月から冬期講習直前までに習う中で、重要な単元についてコメントして行きます。

3-1: 今後の復習機会が少ない文章題(方陣算・平均算)

ここまで習った文章題の特殊技術「和差算・やりとり算・つるかめ算」に加えて「方陣算・平均算」を習います。

まず方陣算。碁石を方陣の形に並べる時の規則を理解し、覚えていく単元となります。大きく以下の4つの規則の原理を理解し活用することがゴールです。

図5

4つのルールの使い分けが少し難しいところですが、とはいえ、イメージしやすい部類の問題です。

ただ、この単元は次にテキストでしっかり登場するのは6年生の春。つまり5年生の間にしっかり復習する機会はありません。

5年生の基礎力トレーニングでは登場しているものの、9月の志望校診断サピックスオープンでは2番の(4)のごくごく基本的な問題でもあるにも関わらず正答率39%という低さでした。

方陣算の規則は簡単なものですので、連続して取り組んでいる時は単純暗記で出来てしまいます。(内側にいくと8へる。など)重要なことはその「8」を忘れたとしても、自分でルールを復元出来るように理由を覚えていくことです。

そこから組み立てて考える訓練を積んでおくことで、6年生になって、より難問の中で再登場する際に「基本からすっかり忘れた状態。1から覚え直す状態」にならずに済むでしょう。また、最難関・難関校ではそもそも方陣算は全く出題されませんが逆に同じコンセプトで新しい図形を与え「自分でルールを捉える問題」が多く出題されます。つまり方陣算でルールを組み立てる経験をしておくことが次につながっていくのです。


次に平均算。こちらも「平均算そのもの」の復習は6年生までほぼありません。
しかし、「平均」という概念は「規則性(等差数列)」「速さの平均」「立体図形の高さの平均」「商売算の平均×個数=値段」など、ありとあらゆる分野で出現していくものとなります。

先ほどの方陣算は、忘れてしまったとしても、実力テスト以外では出題されませんし、今後新しく何かを習う時に知らないと困るということはありません。

一方、平均算は今後の学習で「理解していて当たり前」として出題されますので、しっかり習得して欲しいと思います。

3-2: 冬期講習から加速する平面図形の準備運動(円とおうぎ形)

No27〜28:円とおうぎ形

内容としては、小学校でも習うような基礎的な内容が8割を占めます。重要なのは、「応用問題に挑戦」や「入試問題に挑戦」と取り上げられているものになります。

図6

4年生後半〜5年生前半までは、平面図形(割合なし)のオンパレード、ということで冬期講習に2回・4年生最後にもう1回、5年生冒頭と春に1回ずつ、より発展的で図形を複合したような内容を次々と習っていくことになります。

その際には4年生の秋時点では「応用問題に挑戦」や「入試問題に挑戦」と取り上げられていたものが「基礎レベル」として登場することになり、さらに新しい技術も習っていくことになりますので、この時点でできる限り触れておくと良いでしょう。



ここまで4年生から5年生にかけて何がどう変わるのか、だからこそ今何に注意して進んでいくべきか、お伝えして参りました。

「5年生はなんだか大変そうで、大丈夫かなあ」という不安を抱かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、しっかり備えていれば決してそんなことはありません。

今年の4年生は一学年の人数が大変多いということで、例年に比べ大変熱心な方が多い印象です。今コベツバをご覧いただいている方には、是非万全の備えを行った上で5年生を迎えて欲しいと思います。